大人の眼活
白内障は、目の中でカメラのレンズに当たる水晶体が濁ったり硬くなったりする病態です。水晶体は血管も神経も通っていない組織なので、白内障になっても痛みも痒みもありません。老化とともに起こりやすくなるので、眼の病気では比較的メジャーなものと言えます。
白内障対策
白内障の病態と症状
水晶体が濁ると下図のように光が乱反射してしまうため、見えづらくなります。
進行するにつれて濁りの部分がじわじわと広がり、やがて視野全体がかすんで見えるようになります。白内障が進行すると視力が低下してきますが、初期のうちは落ちません。視力が1.5でも白内障という場合もあります。
視力検査では、視力が落ちなくても光がまぶしくなったり、コントラストがはっきりしなくなったりしているのです。実際の生活では晴れているときに見えづらくなったり、また夜の車の運転で対向車のライトがとてもまぶしく感じられます。それらが早期発見の目安です。
白内障のもうひとつの問題は、水晶体が硬化して弾力性がなくなるということです。水晶体はとても重要な役割をもっていて、左図のように、周囲の筋肉の伸び縮みによってその形を変え、膨張したり、扁平になったりしています。これで、ピント調節をしてるわけなのです。
水晶体の硬化が進行するとともにこのピント調節力も低くなり、視力が低下します。 この状態は「老視」とも言いますが、さらに不透明性が増し、混濁したものを白内障と言うと理解してください。混濁には、左のようにいろいろな進行パターンがあります。
白内障の原因
水晶体は濁ってくると、見えにくくなるだけでなく、弾力がなくなってくることで、遠近の調節もうまくいかなくなってしまうということでした。では、どのようにして水晶体は劣化していくのでしょうか?
それは水晶体に含まれるたんぱく質が変性するためです。水晶体は66%が水分で、あとは33%の蛋白質が均一に分布して、ある程度の弾力を保っています。ところが、このたんぱく質が変性して水を溶かしこまない形になってしまうと、硬く白濁してくるのです。それを引き起こす最大の原因は活性酸素にあると考えられています。
タンパクの変性
「変性」というのは、たんぱく質の構造が変化してしまう事です。タンパクの変性は、熱や酸・アルカリ、化学物質などによって引き起こされます。
例を挙げると目玉焼きがあります。生卵を火にかけたフライパンに落とすと、ジワジワと白身の透明な部分が白くなってきますね。成分は変わりませんが、性質は変わっています。同じものとは思えませんね。この事を「変性」というのです。目玉焼きは熱によってタンパクの変性が起こっているのです。白内障でも同じことが起こっています。水晶体のたんぱく質が、活性酸素によって酸化します。その酸化によってたんぱくの「変性」がおこっているのです。
活性酸素とは
私たちは、呼吸によって1日に500リットル以上の酸素を体内に取り入れています。その酸素を使って食事で摂った栄養素を燃やし、エネルギーを作り出していますが、この過程で取り入れた酸素の約2%ほどが、非常に強い酸化力を持つ活性酸素に変わります。
もともと活性酸素には、その強い攻撃力で体内に侵入したウイルスや細菌を退治するという大切な役割があります。ところが必要以上に増えてしまうと、健康な細胞まで酸化してしまうため、老化の引き金になります。
近年の老化に関する研究で、専門家の間では「老化することは酸化することと同じ」といわれるほど、活性酸素は老化の元凶とみなされ、活性酸素から身を守ることの重要性が指摘されています。
病院での処置
白内障と言えば、いま多くの方が病院で手術を勧められています。手術は、白濁した水晶体にレーザーで穴をあけ、すべて取り除くことから始まります。取り除いたこの時点では、完璧な失明状態になっています。そして前嚢、皮質、核まで全てきれいに取り除いた空間に、レンズを埋め込んで完了です。(下図↓)
手術の方法を聞くと、ちょっと怖いですが… 手術自体は技術もすすみ、成功率も高くなっているので手術に対して過度な心配は必要ないと思います。
白濁した水晶体は、その3割を占めるタンパク質が変性を起こしていて、進行したものはもう元には戻らないと言われています。ですから、かなり進行して見えにくい場合は、手術もやむを得ないと思います。実際、かなり白濁が進行した白内障は、手術によって劇的に見えるようになります。世界が変わった!! と喜ばれます。
・・・とは言っても、本来ならば不要な手術は避けたいものです。取り除いてしまった水晶体は元には戻らないのですから・・・。
それに、眼内レンズは、生身の水晶体と違って、ピント合わせ機能が十分ではありませんから、逆に見にくくなったという事にもなりかねません。ですから、ベテランの先生は、もう少し様子をみて、手術が必要になったらやりましょうと言われるのです。
一方最近では、ほとんど悪くなっていないのに、手術をすすめる若いお医者さんもおられます。なかには、いずれは白内障になっていくのだから今のうちに、という理由で手術を勧められる方もおられます。「まだ、自分の器官で見えるのに、もったいない!」 と感じるのは私だけでしょうか?
白内障手術のリスクとデメリット
白内障で手術をした経験を持つ人は黄斑変性症になる確率が2倍になるという報告もありますが、これは、水晶体を取り除くと網膜が急激に老化しやすいためです。手術後の5年が普通の人(水晶体を取らない人)の30年に匹敵するとも言われています。
白内障の手術をすると眼内レンズを挿入しますが、紫外線防止が施されているとはいっても、やはり網膜にはかなりの負担がかかるようです。
最近では、白内障の手術は発達しているため、矯正視力(メガネをかけた状態)が0.4~0.1に落ちて、日常生活に不便を感じるようになってからでも手術は手遅れということはありません。
もちろん、著しく視力が低下した場合は手術をした方がよいとは思いますが、眼球全体の健康の事を考えると、水晶体を取ったからそれで事足りるとはなりません。
白内障は進行が遅い場合が多いので、その段階で予防・改善することが大切です。白内障の手術を10年遅らせることができれば手術総数を45パーセントに減らすことができるとアメリカでは報告されているのです。
なお、手術をして水晶体を切除した人も、それを機に生活習慣を改め、全身の健康と目の健康を高めることが大事だということは言うまでもありません。眼球周辺の血液・体液の巡りを良くして、これ以上酸化させないように、そして新しい細胞に生まれ変わらせていくことが、なにより大事だと思うのです。身体の中から、眼が良くなる。漢方療法をお勧めしているのはそういう理由です。
体質を改善する東洋医学的アプローチ
白内障は水晶体が古びていく状態ということがご理解いただけたでしょうか?
新しいものと古いものの入れ替わり、つまり「新陳代謝」がうまくいかないと、なんでも古くなっていくのです。劣化していくのですね。
それに拍車をかけるのが活性酸素でした。
活性酸素は体内で必ず発生し、有効利用されています。そして余分な活性酸素は、普段から細胞の中ですみやかに処理されています。ところが、細胞の栄養状態が悪化したり、体液の巡りが滞ったりすると、不必要な活性酸素がうまく処理できず、ジワジワと酸化(老化)が進んでいくのです。
漢方療法では、「めぐり」を大事にしています。水分代謝や血流などを改善していくことで、老化した細胞の入れ替えがスムーズになり、組織の劣化をくいとめます。
病態を改善する栄養学的アプローチ
水晶体はもともと、ビタミンCなどの抗酸化物質を高濃度に含んでいることで知られています。この抗酸化力によって、普段から余分な活性酸素は、その都度、消去されています。しかし、白内障の人は、それが非常に少ないことが分かっており、私は、ビタミン・ミネラルの欠乏も大いに関係していると考えています。ちなみに喫煙は体内のビタミンを著しく消耗します。
年齢を重ねれば重ねるほど、当然ながら老化(酸化)は蓄積されていきますが、若い方でも紫外線、ストレス、過労、運動不足、痛飲、喫煙などによって活性酸素を大量に生じさせていたり、食材の栄養価の低下によって、活性酸素を打ち消す仕組みを発揮できていない方が増えています。食の乱れやタバコ・お酒などが過ぎると、肌が荒れたり、シミが増えたりすることがあります。これは体内の活性酸素がうまく処理できずに、急速に酸化(老化)している証拠なのです。身体を酸化させる可能性のあるものは他にもたくさんあります。一度生活習慣を振り返って改善出来る所がないか探ってみましょう。
白内障の方は、ひとまず、混濁が進まないように、発生し続ける活性酸素の害を溜めないようにしていくことが大切です。 そして、生活習慣などを振り返りながら、酸化しにくい体内環境づくりと、細胞が生まれ変わりやすい環境づくり(新陳代謝UP!)に心掛けていきましょう。
タンパクの変性は元に戻るの?
タンパク質は水素結合、疎水結合、イオン結合などにより高次構造(二次~四次構造)を保っていますが、これらが破壊され特徴的な折りたたみ構造を失うと変性して機能を失います。
かつてはタンパク質の変性は不可逆と考えられていましたが、今では多くのタンパク質では変性させている原因を徐々に取り除くなどの方法で正しい構造を取り戻すこと(再生)が可能であることが分かっており、生体内にはシャペロンと呼ばれる折りたたみを助けるタンパク質も報告されています。白濁した水晶体をもとに戻すのはとても困難なことではありますが、中には見え方が改善される方もおられるのは事実です。まずはこれ以上進行しないよう、身体の中から整えていきましょう。